ディジタル技術検定1級制御部門に合格しており、電気や制御の知識があります
Written By kikuchi d
現代日本人の生活になくてはならない家電の1つとなった電子レンジ。その電子レンジには『ワット数』の違いがあります。
数字が大きければ加熱力が強いのは直感的に分かりますが、実はこのワット数、もう少し深い意味が有るのです。
今回は、電子レンジを上手く使うために役立つ、ワット数の知識と、他にもこのワット数に関連して電子レンジの電気代について解説します。
電子レンジのワット数を理解するために、先ず、電子レンジの仕組みを簡単に解説しましょう。
家庭用の電子レンジは、加熱室内の食品にマイクロ波という電波を照射し、水の分子を振動させて加熱します。
このマイクロ波は、コンセントから供給される電気を高電圧に変換し、マグネトロンという一種の真空管へ供給する事で作られます。
電子レンジのワット数は、こういった一連の仕組みが働く時に関係する電力のことを指し、それには『定格高周波出力』と『定格消費電力』の2種類があります。
電子レンジのワット数の1つ、高周波出力とは、簡単に言うと、食品に直接作用した電波エネルギーの量の事です。
そして、『定格高周波出力』とは、設計通りの使い方で最大出力に設定した時の高周波出力の事を言います。
高周波出力が高い程、食品内部の水分子がより激しく振動し温度上昇も大きくなります。反対にこの出力を小さくすれば、水分子の振動は小さくなり、解凍などの弱い加熱ができるようになる訳です。
日本工業規格(JIS)では、ワット数など電子レンジに関する数値の測定・算出方法を明記しており、基本的に日本のメーカーはその規格にしたがっています。
つまり、カタログに記載された数値を見て、その機種の性能や省エネ性などを公平に判断できるようになっている訳です。
電子レンジの高周波出力については、規定された大きさのガラス容器に水を入れ、10℃程度の加熱をし、その所要時間と温度上昇値を基にワット数を算出するよう決まっています。
ちなみに、電子レンジが使うマイクロ波の周波数は、水が吸収しやすい2.4GHz付近。アマチュア無線や、無線LANではIEEE802.11B、802.11nおよび802.11acなど、そしてBluetoothでも使用している波長です。
したがって、電子レンジから漏れる電磁波は他の機器に干渉する事もあります。
引用元:オリックス・レンテック | 2.4GHz ISMバンドについて - 玉手箱 | ORIX Rentec Corporation
設計通りの使い方において、家庭のAC電源コンセントから電子レンジに流れ込む電気の最大量が『定格消費電力』です。
定格高周波出力がレンジ内部の作用を測ったワット数であるのに対し、この定格消費電力はレンジが外部から取り込むワット数である点が違います。
結局、電気代に直接関係するのは定格消費電力の方です。
定格高周波出力は、電子レンジの性能を示すパラメータの1つと考えれば良いでしょう。
電子レンジのカタログには、『年間消費電力量』というワット数(kWhで表示)も記載されています。
消費者庁の『電気機械器具品質表示規程』では、電子レンジのカタログに表示する年間消費電力量の計算方法を明記しています。
その方式では、125、185、245、285各グラムの水を4℃から70℃まで加熱する時に必要な電力をそれぞれ測定し、規定の係数をかけた上で合計し算出しています。
電子レンジのカタログでは、必ず、定格消費電力の方が定格高周波出力より大きい数字になっています。
これは、レンジが消費するエネルギーの何割かしか、食品を加熱する事に使われていないという事を示しています。
これは主に、マグネトロンの変換効率によるもので、電子レンジ用のマグネトロンは、一般的に70%程度しかエネルギーをマイクロ波に変換できません。
節電を意識するのであれば、食品の加熱力である定格高周波出力だけでなく、定格消費電力のワット数との差を見て、それがが小さい方を選んだ方が良いと言う事になります。
ここでは、電子レンジのワット数(高周波出力)毎に、どの程度の電気代がかかるか、その目安を計算してみる事にします。
電気料金の目安は、『公益社団法人 全国家庭電気製品 公正取引協議会』の資料を基に、27円/kWhとして計算します。
また、電子レンジのエネルギー効率(高周波出力を消費電力で割り算した数値)は、69%と仮定しています。
実際の消費電力をP(W)、電子レンジのワット数の設定をH(W)とすると、以下の計算式が作れます。
P = H / 0.69
この消費電力を使い、電子レンジを使う時間をT(分)とすると、電気料金の計算式は以下のようになります。
電気料金 = 27 × {(P / 1,000)×(T / 60)}
電子レンジの設定を250Wにして1分間使用すると、上記の式から実際の消費電力と電気代金の目安は以下のようになります。
362 = P = 250 / 0.69
0.16円 = 27 ×{(362 / 1,000)×(1 / 60)}
0.16円が、この場合の電気代の目安です。
電子レンジのワット数を500Wに設定し、1分間使う場合の電気代は以下の通りです。
725 = 500 / 0.69
0.33 = 27 ×{(725 / 1,000)×(1 / 60)}
1分間で0.33円
ワット数を1,000Wに設定し1分間使用する場合は、以下の通りです。
1,450 = 1,000 / 0.69
0.653 = {(1,450 / 1,000)×(1 / 60)}
1分間で0.653円
上記の1分単位の電気代に、実際に使用する分数を掛け算すれば、電子レンジの電気代目安を知る事ができます。
たとえば、500W設定で10分間使用すると、3,3円です。
これを30日間繰り替えると99円、1年間ならば1,
205円という事になります。
ただし、実際には各種の料金体系が有りますので、あくまでも目安と考えてください。
電子レンジを使う上で、電気代節約のためにはどうしたら良いでしょうか。
冷凍した食品を解凍できるのは、電子レンジの便利な機能の1つです。
しかし実際には、あまりきれいに解凍できない事も多いです。
これは、食品の内部で小さい氷が解け始めると、その部分にマイクロ波が集中し、結果的に解凍ムラとなる事などが原因です。
食品の解凍であれば、前日の夜から冷蔵庫に移して自然解凍する事も可能です。そうする事で、結果的に電子レンジの使用を減らせ節電につながります。
ターンテーブルの有る電子レンジでは、テーブルの外側に食品を置くようにしましょう。
食品が回転し常に角度を変える事で、マイクロ波の当たるポイントが集中せず、効率的に上手く加熱できます。
もちろん、加熱時間を長くし過ぎない事が大前提です。
他の物と同様に、電子レンジ用のマグネトロンにも寿命があります。
製品の設計時には、動作安定性と効率のバランスがベストとなるように電子回路が構成されていても、マグネトロンの性能が落ちてくればエネルギー効率は下がります。
電子レンジが消費するワット数の効率を考えるのであれば、出来るだけ新品に近いものを使用する法が良いと言えます。
電子レンジには、複数の加熱方法が組み込まれている場合も多いです。
それぞれの機能の違いは、ワット数や電気代にどう影響するのでしょうか。
上記の通り、電子レンジのマグネトロンの効率は、現状で70%程度が上限です。
しかも、ベストの効率を達成するためには、レンジ内部の電源回路なども複雑でコストがかかるもの(インバーターなど)となります。
レンジ機能について電気代の節約を考える上では、高周波出力と消費電力の差が小さいものを選ぶ事になりますが、その点でも価格の高い上位機種を選ぶ方が有利です。
しかし、電子レンジに組み込まれた電熱ヒーターだけを使い加熱する場合は、概ねそのワット数が消費電力だと考えて問題ありません。
電熱ヒーターは構造がシンプルで、単純に消費電力に見合った熱を発生するだけだからです。
原理的には、電子レンジの価格は電熱ヒーターとその消費電力のワット数の差に、さほど影響を与えないとも言えます。
ただし、オーブン機能の方がレンジ機能より加熱効率が高い、という意味ではありません。
あくまでも、加熱設定の表示と実際のワット数の差が大きくなりにくいという事です。
ここでは、カタログに記載されている数値を見て、現状で高効率な機種だと言える電子レンジをピックアップします。
人気のヘルシオシリーズの一機種で、レンジやオーブンだけでなくウォーターオーブンなども備えた上位機種です。
1,000Wの高周波出力時(約3分間の制限あり)でも消費電力は1,460Wであり、ワット数の効率が良いタイプとなっています。これをパーセンテージに換算すると68%です。
また、電子レンジ機能の年間消費電力量は57.5kWh/年です。
食品の重さを細かく設定できるので、解凍機能を使用する際にも暖め過ぎが防止でき、節電にも効果的でしょう。
こちらの機種も、スチーム機能で蒸し調理などもでき、当然、オーブンやグリルも付いています。
ワット数としては、1,000Wの高周波出力時(約3分間の制限あり)に消費電力は1,430Wと高効率(約70%)です。
電子レンジ機能の年間消費電力量は、56.2kWh/年となっています。
コンビニなど店舗で使用する電子レンジは、業務用タイプになります。
例えば、パナソニックのNE-1802の場合では、最大の高周波出力が1,800Wとなっていて、家庭用の2倍程度のパワーが有ります。
加熱用のマイクロ波は、上下からむらなく照射されるようになっているなど、効率的な動作を考慮した設計です。
業務用電子レンジでも、かかる電気代は概ね上の項に書いた計算方法が適合しますが、コンビニ店舗など法人契約の場合は、1kWh当たり単価が数円程度安い料金プランもあります。
電気代の目安は、料金プランに合わせて計算すると良いでしょう。
また、このタイプの電子レンジではハイパワーを支えるために、電源は200V(一般家庭の多くは100V)の契約が必要となっています。
今回の記事では、電子レンジの高周波(マイクロ波)加熱にスポットを当てて、ワット数と電気代の関係などをまとめました。
しかしながら、実際にはオーブン機能や加熱水蒸気など、さまざまな機能を組み合わせて調理をすると思います。
その組み合わせのそれぞれについて、ワット数の評価が違ってくるので、現実にはかなり複雑な話になります。
電子レンジのカタログには、オーブン機能などの年間消費電力量も個別に記載されているので、レンジ機能のものと合わせて検討するのも良いでしょう。
その場合は、レンジ機能とオーブン機能、それぞれの使用時間を割合(6:4や7:3など)で計算しておき、年間消費電力に掛け算する事でも目安が測れます。
電子レンジにつきものの数字、それがワット数ですが、実は『定格高周波出力』と『定格消費電力』の2種類が存在します。
この中で、電気代に直接関係するのは定格消費電力です。
定格消費電力は、必ず定格高周波出力より大きいワット数になっていて、この差が、電子レンジの効率を表しています。
エネルギー効率が高い電子レンジには、内部の電子回路にコストがかかっている上位機種が多いです。
電子レンジの電気代を節約する工夫としては、解凍モードは避けて冷蔵庫での自然解凍を活用するなどが考えられます。
みなさんも、電子レンジのワット数を意識するようにして、便利で快適な節電・節約生活に、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。