“No music, no life.” が信条の「西の風」です。当方の音楽遍歴はちょっと変わっておりまして、小学生のころは映画音楽やプログレ、ときどき流行歌だったのが、中学生でいきなりバッハに目覚め、その後紆余曲折を経て古楽から現代まで幅広く愛好するようになりました(ただし演歌だけはどうしてもダメな人、基本的に洋楽人間)。
そんなディレッタントを地で行く当方ではありますが、片時も音楽なしには生きられず、ゆえにイヤホンあり。というわけで、今年2月に発売されたワイヤレスイヤホン「BeatsX」の使用感をレビューしたいと思います。
「BeatsX」は高音から低音まで、たいへんリアルな再現性能があるという印象をまず受けました。Bluetooth接続タイプなので、高音域は多少くぐもって聴こえるのかな…といささか心配しておりましたが、たいへんクリアで「再圧縮」の影響もほとんどないと言ってよいと思います。高音特有の輝度もよく再現されており、この点では有線タイプとまったく遜色ないと思います。
「BeatsX」は1万円以上の高価格帯製品なので、当然のことながら中低音の膨らみ・厚みが感じられ、臨場感あふれる響き。チャイコフスキーの「交響曲 第5番」終楽章の堂々たるマーチ、その前の弦のピチカートセクションともにさながら大口径スピーカーで再生しているような感覚。高音とのバランスもよく取れています。
「BeatsX」は高域から低域まで、とにかくバランス最重視型のイヤホン。個人的にはどんなジャンルの楽曲でも安心して聴いていられるイヤホンだと感じました。でもハードロックやモダンジャズなど、低音をもっと強調して聴きたい、という向きにはやや物足りないかもしれません。やたら重低音を響かせる「ドンシャリ」型ではなく、音像全体をバランスよく再現することに徹したイヤホン、と言えると思います。
「BeatsX」の再現性能がドンシャリではなくバランス重視、ということは必然的に音響全体の透明感も高まるはずで、事実、「BeatsX」を装着して試しにバッハのオルガンコラール作品を聴いてみますと、ソプラノに置かれた「定旋律」と呼ばれるメロディーラインがくっきりと浮かび上がって再現されました。高音-中音-低音と音どうしが混濁しないのもすばらしい。このへんは技術者の調整の技が光る製品だと思います。ヘンにイコライザーとかいじってないところがいいですね。
「BeatsX」の実売価格は15,000円台。数千円台の「ambie」クラスでも少々キツいなあ、という情けない御仁としては高嶺の花的な製品といったところ。正直な話、「BeatsX」と同程度の性能の有線タイプのイヤホンならもっと安く入手できる…とも思ったりしますが、高機能プラス高音質、そしてワイヤレスならではの扱いやすさはなかなか得難いもの。ひじょうに高い再現性能を持つワイヤレスイヤホンとしては、現行価格は妥当な線かもしれません。評価はあくまで当方の懐具合を基準にしている、と考えてください。余裕のある方はもちろん買って損はなし、マストバイと言えるでしょう。
まず「BeatsX」の外箱ですが、スリップ状の突起部を引っ張るだけでかんたんに、そしてキレイに(ここ重要)取り出せるというのは、本体を装着する前から気分をアゲてくれまして、まずそこが気に入りました。「BeatsX」本体のデザインも機能的でありながらクールで、さすがApple製品との連携を前提に設計された製品、と感じました。カラバリはグレイ、ホワイト、ブラック、ブルーの4色。
iPhoneなどのApple製品と親和性の高いデザインの「BeatsX」ですが、じっさいに装着してみると「Flex-Formケーブル」と呼ばれる細いフラットケーブルのためなのか、ワイヤレスイヤホンによくある首周りのイラつきはあまり感じません(もっとも真夏のように地肌に直接触れれば多少の「こすれ感」はありますが、これは「BeatsX」にかぎらず、首に回しかけるタイプのワイヤレスイヤホン共通の課題)。「BeatsX」も最近主流のカナル型イヤホンですが、連続装着時にありがちな耳の違和感もほとんどありません。ただしちょっと手が触れたりするとかんたんにぽろっとくるので、このへんもう少しなんとかならんかなあ、という気はしました。あとは文句なし。
外観上、「BeatsX」で目立つ特徴はイヤホン本体の背面どうしがマグネットで接着すること。このひと工夫はただでさえ絡みやすいケーブルの絡みを防止するためのようで、じっさいに使用してみると、ちょっとはずしてほかの用事を、というときも首に引っかけたまま片づけられて便利です。ただし付属のキャリングケースは「BeatsX」本体と似た感触の素材にこだわっているためなのか、ごくふつうのソフトケースに比べて使い勝手はあまりよいとは言えず、デザイン優先の犠牲(?)になっているような気がしてその点は少し残念。
半面、「BeatsX」を使用してもっとも便利だと感じたのは、バッテリー充電の速さ。メーカー宣伝のとおり、1時間以内でフル充電可能な急速充電システム「Fast fuel」は、他社製品にはない強みだと思います。付属の専用LightningケーブルがなくてもiPhoneユーザーならばiPhoneのLightningケーブル1本持っていれば同様に短時間で満充電可能なので、充電時間が短くてすむ(そしてかさばらない)、というのはメリットだと思います。
「BeatsX」にはイヤチップが4種類同梱されており、ぴったりフィットするチップを選べば遮音性に関してはまず問題ないはずです(落下防止のためか、さらにがっちり[?]固定する「ウィングチップ」まで付属していますが、緊急にはずす必要のあるときにすぐにはずれないのではないか、という気がします。ジョギングのときは便利かもしれませんが)。「BeatsX」は防水・防滴仕様ではないので、イヤホンやハンズフリーマイク / リモコン操作部、電源部に水分が付着しないように注意して扱う必要があります(とくに雨降りの日など)。
またハンズフリーマイクは通常の音声会話だけでなく、iPhoneユーザーなら音声認識アシスタントSiriの起動もでき、Siriをよく使うという方にとっては使える機能だと思います。
「BeatsX」はケーブルにちょっと触れただけで耳からはずれやすい…ということはありますが、振動だけならたとえばランニング中にはずれる、ということはまずありません。ただ激しいワークアウトは場合によってははずれる恐れがあると思うので、「BeatsX」を装着したままの運動メニューは軽めにしておいたほうがよいでしょう。
「BeatsX」は【音質】でも書いたとおり、高音-中音-低音のバランスが優れているので、むしろよけいなことはせずひたすら音楽を聴きこむ「じっくり聴き」こそ、本領を発揮するのではないかと思います。
「BeatsX」は全音域の再現性能および再現バランスが優れたワイヤレスイヤホンなので、どんな音楽ジャンルでも対応可能なイヤホンだと思いますが、高音域の輝きの再現性も自然でクリアなので、バラッドなどボーカル系がとくに向いているように感じます。人間の声に向いている、ということではラジオドラマや朗読などのポッドキャスト系にも向いているでしょう。また先ほど書いたように、管弦楽曲もピアニッシモからフォルテッシモまで、楽器どうしの音がごっちゃになることなく立体的に再現してくれます。
「BeatsX」は 1). クラシックからポップス、ロック、テクノなど、オールジャンルに対応できるワイヤレスイヤホン 2). 高音から低音まで、やたらドンシャリを強調しない、とにかくバランス最優先のイヤホン 3). 急速充電対応で便利、という製品だと感じました。はっきり言って欠点らしい欠点はゼロ、と言ってもよいくらい完成度の高いイヤホンで、この点はとても好感が持てました(もっとも音楽の好みによっては低音が若干物足りない、全体の聴こえ方がフラットだ、と感じるケースもあるかもしれません)。一点だけ、操作性に関して若干の難ありと感じたのは電源ボタン周りでしょうか。ボタンが押しにくい位置にあり、押すとインジケーターが見にくくなる、そしてインジケーターじたいも小さくわかりにくいため、このへんを改善すればもっと操作性が向上すると考えます。付属のキャリングケースもソフトな材質のケースに変更すべきだと思います。でも総合的に判断すると「BeatsX」は、1万数千円で買えるBluetoothワイヤレスイヤホンとしてはひじょうに完成度が高いと感じました。
形状 インイヤー型
接続 Bluetooth
バッテリー 充電式リチウムイオン
トラックコントロール付きインラインマイク
通話と音楽のインラインコントロール
インライン音量調節
ノイズアイソレーション
充電 Lightningケーブル
Flex-Formケーブル
互換性 iPhone 5以上、iPad、iPod touch(第6世代)
BeatsXイヤフォン
イヤーチップ(4サイズ)
着脱式ウィングチップ x2
キャリングケース
Lightning - USB-A充電ケーブル
クイックスタートガイド