筆者の家庭でもかれこれ20年はもうアンテナとは無縁な生活を送っています。マンション住まいに移った際にはケーブルTV会社との契約が必須でした。今は戸建住宅に移り住みましたが、業者に依頼して屋根上にアンテナ設置してテレビ受信をすることは経年劣化時の手間などを考え、最初から選択肢になかったのです。そんな経緯も踏まえて「無線アンテナ」での功罪を順に記述したいと思います。
Written By 速水 雄一
テレビは電波を受信しなければ放送を見ることは不可能です。つまり「アンテナ」という存在は必須条件なのです。集合住宅では「共同アンテナ」がごく普通に引かれているので、入居と同時にアンテナケーブルをテレビにつなげば、それで電波を受信できる物件がほとんどです。また、電波障害などが多い世帯の集まりで、共同アンテナをシェアする方法はアナログ放送の時代からも実際ありました。BS・CS放送の出始めには、マンション等でもベランダ・バルコニーに「パラボラアンテナ」が、各世帯にみな設置されている風景はそれほど珍しくなかったと思いますが、昨今建設されたのマンション等では少なくなったように思います。戸建住宅でも、必ずアンテナを立てている、というわけでもないようです。ここ数年で分譲された戸建住宅の並びでは、むしろアンテナを独立して立てている家庭の方が少数派にも見えます。ではこれらの家庭では、テレビは全く見ないのでしょうか?中にはそういう家庭もあると思いますが、実際のところは「アンテナの無線化」が急速に浸透しつつあるということがトレンドなのだと思われます。この記事では、物理的なアンテナを用いずに、どうやってテレビ放送を受信するのかを説明していきます。また、それによる費用の問題などでの、メリット・デメリットについても考えてみたいと思います。
「無線」をあらためて定義しておきますが、固有のアンテナを「屋外」からケーブルで引き込んでの接続ではないということです。「屋根上にアンテナを持たない」と言い換えたほうが的確かもしれません。歴史的にみると、地上アナログ放送の時代に「難視聴地域」と称される、自宅でアンテナを立ててもテレビの受信が困難な地域で発祥したものが「ケーブルテレビ」の始まりとも言われています。1955年、群馬県の「伊香保温泉」の地域一帯で始まったとされます。この頃の「ケーブルテレビ」は、近隣での標高の高い場所に高感度のアンテナを立て、それを「有線」で分配したというものです。それなら「無線」ではなくて「有線」ではないか、と思われそうですね。この時期のものは確かに方法としては「有線」に該当するかもしれませんが、現在では広義において、「アンテナを持たずして」受信できる方式のひとつを「ケーブルテレビ」と称しています。この場合、線でつながるのは、部屋に据え造られた「引き込み口」から、受信のための装置を経由して、テレビのアンテナ接続口に直結します。部屋の外には固有個別のアンテナを持たないので、「無線」というわけです。
上記で触れた通り、ケーブルテレビは、その地域ごとに運営会社があり、その会社との契約によって、地上デジタル、無料で視聴できるBS放送、そしてケーブル会社が単独で行っているチャンネルが視聴できます。この他、オプションでチャンネル個別の支払いが発生しますが、CS放送なども、特にパラボラアンテナの自力設置なしで視聴できるようになっています。ただしその地域のケーブルテレビ会社であっても「対応エリア」というのは限局されていることがあり、近隣でありながら、非対応地区なため、断念せざるを得ないこともあります。HPなどで対応住所地番なのかどうかを確認する必要はあります。同一県内での転居等で、端からあてにしていると、転居先ではケーブルテレビは非対応、などというケースは、地方でたまにあることなので注意が必要です。
NTT東日本・西日本それぞれで提供されている、テレビ放送受信サービスに「フレッツ・テレビ」があります。これはNTTの「フレッツ光」でインターネット回線を引き込む方式で、自宅まで光回線が到達していればオプション的に実現できる方法です。「アンテナなし」という点は、ケーブルテレビと似ていますが、こちら「フレッツ・テレビ」では、「パス・スルー方式」(後述します)という伝送の仕方で屋内にテレビ配線を巡らせるため、それぞれのテレビの台数だけ、専用受信機が要らないという非常に大きなメリットがあります。ただしまだ提供エリアが完全な全国展開とはいえず、特に東北地方ではまだ未対応の地域がほとんどです。しかし今後順次対応エリアを広げていくことは間違いなく、次世代の本命ともいえるテレビ受信方式と言えそうです。
「室内アンテナ」は、電波塔からの距離が近い「強電界」地域に限って有効な方法です。電界の強度に、具体的で明解な指標はないのですが、概ね大都市圏で電波塔が目視できるくらいの近距離ならば強電界エリアの可能性が高いです。この場合、市販の「室内アンテナ」でも十分に電波を受信できるケースがあります。
参考商品:
このような製品ですと、非常に低コストで収まります。そして何よりも、これだけで受信が十分できてしまうのであれば、アンテナが風害などで倒壊するというようなリスクから完全に逃れられますので有効です。業者にアンテナ設置を依頼することもないので、そのコストもカットできます。問題なのは、気象条件等で、電波が悪くなった場合に、付属のブースター以上の処置が行えないことぐらいです。厳密に言うならば、これは「無線」には該当しないかもしれませんが、家屋外にアンテナを立てない、という意味からは、同じカテゴリとして扱っていいものかと思います。
3種類の方法を示しましたが、それぞれに用意するものは異なってきます。
ケーブルテレビでテレビを視聴するためには、まず自宅が対応住所地番であるかどうかをしっかりと調べます。対応エリアであるなら、契約を締結し、工事日が確定すれば、あとは必要なもの一式は全て用意してくれることになります。ここで、電波の伝送方式には2種類があることを、あらためて説明しておきます。ケーブルテレビでの方式は「トランスモジュレーション方式」といいます。この方式では、家庭まで送り届けられる間の電波は、ケーブルテレビ用の形式に置き換えられ、そのままではテレビで受信できません。ですので、テレビ接続の際に「セットトップボックス」通称「STB」が必須となります。この装置はケーブルテレビ会社によって違いはありますが、料金に込みな場合と、レンタルの場合とあるようです。長期間の利用を計画して、買取りにすることもあります。いずれにせよ、基本は、「テレビ1台に、それぞれSTBを1基」となりますので、家庭内で複数のテレビを視聴する場合にはコストがかかります。ですので、家庭のテレビの状況などを具体的にした上での見積もりをきちんと取ってから契約しませんと継続的な出費になりますので、負担が大きすぎることにもなりかねません。次の②で、もうひとつの伝送方式である「パス・スルー方式」を説明します。
上記画像は、筆者の自宅のフレッツ光専用の「CTU(加入者網終端装置)」です。必要なものは、この「CTU」が映像オプションである「フレッツ・テレビ」対応のものであれば、おそらくそれだけで足ります。終端装置は、東日本と西日本では使うものが違うようですが。筆者は西日本のユーザーですので、東日本での終端装置は、未調査です。
フレッツ・テレビでも①と同様に、まずは自宅が対応住所地番かどうかをHPなどから調べておきます。そこそこ大きな都市でもまだ、未対応エリアであることはありますので、現状では契約不能なお住まいもあるかと思います。対応エリアであるならば、まずはインターネット契約が「フレッツ光」であることが大前提となりますので、これを受け入れられるかを考慮します。そもそもインターネットはそれほど必要でなく、月額の高い「フレッツ光」にアップグレードする必要性がまるでない、となれば、この方式は断念するほかないでしょう。その面が問題なければ、「フレッツ光」回線の契約オプションとして、「フレッツ・テレビ」の契約を申し出ます。新規工事であれば工事日を設定し、必要とされるものは全て供給されます。「フレッツ・テレビ」での電波の伝送方式は「パス・スルー方式」です。この方式ではそのまま接続して電波を受けられるので、①で必要とされた「STB」は、家庭にテレビが何台あろうと、一切必要ありません。同じNTTでも、東日本と西日本では、状況が微妙に異なるようですので、参考サイトとして、両者とものリンクをのせます。
東日本:フレッツ・テレビ
西日本:フレッツ・テレビ
どちらも利用料金は、フレッツ光の主契約料金に上乗せになります。この記事を書いている2018年11月現在では、同額の660円(税別)ですが、2018年12月1日より、料金は改定となるようですので、上記のURLから、お住まいの地域別に諸元をよくお読みください。
これは、方法の③で、商品を紹介しましたが、あのような専用の「室内アンテナ」を購入するだけです。多くの商品では、接続線などの必須用品は含まれているものがほとんどのようです。場合によっては、電波を増幅させる「ブースター」も含まれて売られているので、後から何かを買い増ししなくて済むことが多いようです。商品はそれこそ、ピンからキリまで存在し、「室内」とは言えない、バルコニー据え置きタイプの高額なものもよく売れているようです。ただし、お住まいの地域が強い電界にないと使えませんので、放送エリアの目安が見れるサイトを紹介しておきます。
参考:一般社団法人放送サービス高度化推進協会
この参考サイトでおおまかな電波の強度がわかります。ただし、住宅の立地条件で、標高や遮蔽物の有無などでも、大きく電波の状態は変わってきますので、室内アンテナを選択する際は慎重になっていただく必要があるかと思われます。
無線アンテナになることのメリットは、その方法にもよりますが、非常に魅力的なメリットが多く存在します。これらのどこに重点を置くか、で、採用不採用が決まると言ってもいいと思われます。全体を通して言えることは、アンテナ線の引き回しがなくなるので、その分スッキリとするということは共通してあげられます。
ここに重点を置く方は多いようです。集合住宅の場合には選択肢はほとんどないのですが、あるとすれば、共同アンテナが有料CS放送に対応していない場合などがあり得ます。部屋の方位的に、パラボラアンテナの設置があまり有効でないとか、そもそも「美観を損ねる」からという理由で、ケーブル会社を別な会社にするとか、フレッツ光を引いてフレッツ・テレビもオプションにするなどは考えられます。ましてや、戸建住宅ならばさらに「美観を損ねる」ことを嫌い、無線化する方式を選ぶことはよくあります。デザイン性の高い家屋を持った場合、屋根上にアンテナがあるかないかは、大きな問題になることでしょう。
ここでは「フレッツ・テレビ」でのメリットについて重点的に触れます。まだ全国展開でないサービスであることは述べましたが、光回線を引いて、それを大元にしてのオプションで「フレッツ・テレビ」を選択するということは、ネット回線を主役として、その他の通信を「集約的に」受けられることになります。この「フレッツ・テレビ」ですが、ケーブルテレビ単体では絶対あり得ないオプション料金で、ほとんどのチャンネルをカバーできます。そしてこの他にも、電話を「ひかり電話」にすると固定電話の基本料金を相当抑えることができます。「上り下り」とも、ほぼ最高速度のインターネット環境を整備しつつ、映像と電話通信の2つもオプションにして、支払いを一括にすることで、トータルでは割安感が得られると思います。筆者も3年前の転居の際、考え抜いて「フレッツ・テレビ」でテレビを視聴していますが、実に快適です。
「室内アンテナ」はこれに該当しませんが、ケーブルテレビ、フレッツ・テレビ、いずれも、天候などの影響を受けにくいことは非常に大きなメリットです。悪天候なほど、テレビは普段よりも視聴を求められる傾向があるので、理にかなっています。例えば「台風」などの接近があったとして、当然、「不要不急の外出」が避けられるとするなら、報道を見ようということになるので、その状況下での電波障害や、アンテナの倒壊などのリスクから遠ざかっていることは大きな安心感につながります。
これも「室内アンテナ」以外となりますが、世帯個別にパラボラアンテナを設置することなく、有料専門チャンネルを自在に契約したり中止・停止したりして楽しめることは大きなメリットです。有料放送のほとんどは、今は「月締め」で契約を停止・復活がかなり自由にできますので、常時それらの選択肢を持てるということは一種の贅沢感があります。事前に「番組表」が配布されることが多いので、映画やドラマのシリーズの再放送などをチェックして、見たい時期だけ支払い、何もなくなればやめるという観方ができます。野球などもシーズンかそうでないかで違いますし、競馬のグリーンチャンネルも、春と秋のG1シーズンだけ、という方もいらっしゃいます。
テレビを無線で見るメリットは非常に多いですが、当然、デメリットも存在します。
アンテナを立ててしまえば、本来地上波は無料で視聴できるチャンネルです。ですから、アンテナを設置することを業者に依頼するのと、無線でテレビを視聴するのとでは、前者は「固定費」が全くかからないので、非常に短期間で「回収ポイント」あるいは「損益分岐点」がはっきりします。簡易的な計算をしますと、自前アンテナ設置にかかる費用は、アンテナ本体(BS・CS用を含む)と工事料金込みで、だいたい「65000円~80000円」程度だとされます(業者間で差はあります)。それに対して、ケーブルテレビが標準工事は無償だったとしても、月額5000円だとします。このとき、1年半=18カ月で、ケーブルは90000円に達して、アンテナ設置を上回ってしまいます。フレッツ・テレビは、インターネット主体の支払いなので、簡単なシミュレーションはできませんが、それにしても課金はされます。
これは逆説的な問題ですが、ある時点で、無線でのテレビ受信をやめよう、と思った場合どうなるでしょうか。例えば、もうそれほど地上波のテレビも見なくなった、とか、最低限でNHKだけクリアに見えれば固定費を払う価値がもうなくなった、などのケースです。こうした際に、どのような理由から「無線」を選んだかにもよりますが、その理由は壊されることになります。仮に「美観を損なうから」という理由から始まっているなら、どうしてもアンテナを設置するしかなくなります。うまくいけば、感度の非常に高い「室内アンテナ」に切り替えることで受信可能になるかもしれませんが、弱電界だとわかりきっている場合には、アンテナ工事ということになるでしょう。ただ、美観の問題に関していうならば、かなり感度の良い、「壁設置型」とでもいうアンテナが注目されています。設置を業者に依頼すれば、工事費はかかりますが、下記のような商品もあるにはあります。
CS放送対応まで考えると、上記よりもさらに高額になりますが、設置の手軽さと、風水害への強さでは、このような商品のチョイスで、デメリットを打ち消す方向へ持って行くこともできそうです。
「DLNA」(Digital Living Network Allianceの略)という、標準規格に準じたテレビや録画デッキなどを利用すると、屋内でのテレビおよび録画番組の視聴が、全て「無線」になります。しかしこの「DLNA」は、非常に優れた互換性で広く流通しつつあったにも関わらず、非営利業界団体としては、2017年に「解散」されました。筆者は一度もこの規格での「無線」を試みたことがないので、参考サイトをのせておきます。
参考:wikipediaより
テレビを無線化する、ということで、「自前アンテナなし」の環境作りと、その大きなメリット、そして金銭面でのデメリットなどをできるだけ緻密に調べてみました。テレビ電波は全国あまねく、どこでも受信可能が建て前ではありますが、やはり立地の良い都市部の強電界地域の優位は揺るぎなく、自前アンテナでの限界から、無線への道を選ぶ家庭も少なくありません。ケーブルテレビはそうした中、地域密着で地道に継承されてきています。そして今は、光回線を引くことによって「映像オプション」として「フレッツ・テレビ」でテレビを見ることが段々とトレンドになりつつあることがわかります。これから先も、「インターネット回線」が、常に時代のメディア回線の屋台骨に進化していくことは間違いないように感じました。
以上